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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)471号 判決

控訴人 鈴木よし

被控訴人 久保篤司 外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人の第一次請求を棄却する。

控訴人の第二次、第三次請求を却下する。

訴訟費用は第一、二審を通じ全部控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「(1) 原判決を取り消す。(2) 控訴人が原判決添附の物件目録記載の土地につき所有権を有することを確認する。(3) 被控訴人久保は右目録記載の土地につき、前橋地方法務局水上出張所昭和二八年七月一四日受附第三四二号を以てなした同年一月一五日売買による所有権取得登記の抹消登記手続をなせ。(4) 被控訴人高野は右目録記載の土地につき、前橋地方法務局水上出張所昭和二九年三月一九日受附第八二号を以てなした同年三月一〇日売買による所有権取得登記の抹消登記手続をなせ。(5) 右(3) (4) 項の請求が認められない場合には、被控訴人高野は、右目録記載の土地につき、控訴人に対し、昭和二九年七月一四日買戻による所有権取得登記手続をなせ。(6) 右(2) (5) の請求が認められない場合には、被控訴人久保は、控訴人に対し金三六万円及びこれに対する昭和三一年三月二三日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。(7) 訴訟費用は第一、二審共被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら各代理人は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用、認否は、原判決の事実らん記載の如くであるから、右記載を引用する。

理由

よつて按ずるに、控訴人の本訴請求の要旨は、(一)、原判決添附の物件目録の記載の土地は控訴人の所有であつたところ、被控訴人久保のため買戻特約附売買による所有権取得登記がなされ、次いで被控訴人高野のため売買による所有権取得登記がなされているが、右の買戻特約附売買なるものは、控訴人と被控訴人久保とが相通じてなした仮装行為であり、また被控訴人高野は右事実を知つて被控訴人久保から右土地を買い受けたものであるから、この土地の所有権は被控訴人らに移転することなく依然控訴人に存するのであり、よつて被控訴人らに対し右所有権の確認を、また各被控訴人に対しそれぞれ右各所有権取得登記の抹消を求める。(二)、仮りに、右買戻特約附売買が有効であつて被控訴人らに対する右各抹消登記の請求が理由なしとすれば、控訴人は、右買戻特約所定の期間内に、―但し、被控訴人高野に対する所有権移転登記がなされた後であるが、―被控訴人久保に対し買戻の意思表示をなし、かつ適法なる買戻代金の弁済の提供をしたから、買戻の効果を生じたのであり、被控訴人高野は控訴人に対し「土地所有権を移転し且つ一右買戻による所有権移転登記をなすべき義務を負うに至つたのであるから、同被控訴人に対しこれが登記手続を求める。(三)、仮りに右(二)における被控訴人久保に対してなした買戻の意思表示及び弁済の提供を以てしては買戻の効果を生ずるに由なきものであり、これがため(一)の所有権確認の請求及び右(二)の被控訴人高野に対する買戻による所有権移転登記の請求が理由なしとすれば、控訴人は、被控訴人久保に対する金一二万円の債務の担保のため譲渡担保の趣旨で本件買戻特約附売買をしたのであるのに、被控訴人久保は、本件土地を右債権担保のためにのみ利用するという信託債務に違反してこれを被控訴人高野に売却したものであり、これがために控訴人は右土地を取りかえしえなくなつたのであるから、被控訴人久保に対し右債務不履行による損害の賠償を求める、というにある。

そして右(一)の請求について諸証拠を検討してさらに審究した結果、当裁判所も結局原審同様本件買戻特約附売買が当事者相い通じてなしたる虚偽の意思表示であるとする控訴人の主張はこれを肯認することができず、従つて控訴人の右請求は理由なきものとして棄却すべきものと判定したので、この点に関する原判決の説示を引用する。

次に右(二)、(三)の請求について検討する。ここに控訴人の請求の趣旨について考えるに、控訴人は、(二)の請求においては、その請求の趣旨として、(一)の請求のうち被控訴人らに対する所有権確認の請求はそのまま存置し、ただ被控訴人らに対する各抹消登記請求が認容されないときは予備的に被控訴人高野に対し買戻による所有権取得登記を求めているのであり、この形式と右(一)、(二)の請求における主張の全趣旨から判断するに、控訴人のここでの請求の趣旨は(一)の請求が理由なしとすれば被控訴人高野に対して本件土地所有権の確認と買戻による所有権移転登記を求める、というにあるものと解すべく、また控訴人は、(三)の請求においては、その請求の趣旨として、(一)の請求のうちの各被控訴人に対する所有権の確認の請求及び(二)の被控訴人高野に対する買戻による所有権移転登記請求に対応する被控訴人久保に対する損害賠償の請求を予備的申立として掲げているけれども、前段説示にかかる(二)の請求における請求の趣旨及び控訴人の(三)の請求における主張から考えて、(三)の請求の趣旨は、(二)の請求すなわち被控訴人高野に対する所有権確認の請求及び買戻による所有権移転登記の請求が理由なきときは被控訴人久保に対し損害の賠償を求める、というにあるものと見るべきである。ところで、控訴人の(二)の請求は被控訴人久保に対する(一)の請求の理由なきことをも前提として被控訴人高野に対する請求をなすものであり、その(三)の請求は被控訴人高野に対する請求の理由なきことを前提として被控訴人久保に対する請求をなすものであつて、いずれも講学上いわゆる主観的予備的請求の併合にあたる。かかる予備的併合を許容すべきか否かについては積極、消極両説あるが、他人間の訴訟に依存せざるをえない被告の応訴上の著しい不安定、不利益を考えれば原告の保護に偏したかかる訴訟形式は許容せられないものと解するのが相当であり、そして、併合せられた主観的予備的請求なるものはこれを分離するときそれ自体としてはいわゆる条件附訴として不適法なものといわねばならないのである。然らば、控訴人の右(二)、(三)の請求は不適法として却下すべきであり、その実体につき審判し控訴人の請求を棄却した原判決は失当といわねばならぬ。

よつて原判決を以上の趣旨に変更すべきものとし、民事訴訟法第九六条第八九条を適用して主文の如く判決する。

(裁判官 大江保直 猪俣幸一 古原勇雄)

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